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大阪地方裁判所 昭和46年(ワ)5098号 判決 1975年1月30日

原告

西田玲子

外二名

右原告ら訴訟代理人

大兼利夫

被告

株式会社朝倉組

右代表者

朝倉勝美

被告

今西英爾

右被告今西訴訟代理人

中山厳雄

外二名

主文

被告今西英爾は、原告らに対し、それぞれ金五、〇〇〇、〇〇〇円宛、およびこれに対する昭和四六年一一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。原告らの被告株式会社朝倉組に対する請求を棄却する。

訴訟費用は、原告らと被告株式会社朝倉組との間においては全部原告らの負担とし、原告らと被告今西英爾との間においては、全部同被告の負担とする。

この判決は原告ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

被告らは各自、原告らに対し、それぞれ金五、〇〇〇、〇〇〇円宛およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行の宣言。

二、請求の趣旨に対する答弁

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  請求原因

一、事故の発生

1  日時 昭和四五年二月一三日午前八時一〇分頃

2  場所 八尾市大窪一三六八番地先道路上

3  加害車 大型貨物自動車(ダンプカー、和一り一一二二号)

右運転者 被告今西

4  被害車 軽四輪貨物自動車

右運転者兼被害者 亡西田弘(以下亡弘という)

5  態様 前記道路を北進中の被害車と南進中の加害車とが正面衝突した。

二、責任原因

1  運行供用者責任(自賠法三条)

被告株式会社朝倉組(以下被告会社という)は、加害車の所有者である被告今西を下請として使用し、加害車を用いて被告会社の土砂運搬の作業に従事させ、加害車を自己のために運行の用に供していた。

2  使用者責任(民法七一五条一項)

被告会社は、被告今西を専属的下請として使用し、同人が被告会社の業務の執行として加害車を運転中、後記過失により本件事故を発生させた。

3  一般不法行為責任(民法七〇九条)

被告今西は前方不注視、速度違反、追越不適当、通行区分帯無視の過失により本件事故を発生させた。

三、損害

1  受傷および死亡

亡弘は本件事故により頭部外傷Ⅳ型、脳内出血、前頭部、顔面口唇裂創兼挫滅創、全身打撲傷兼全身多発生擦過創の傷害を受け、即死した。

2  死亡による逸失利益

(一) 昭和四五年三月一日から同四六年六月末日までの間の逸失利益

亡弘は、本件事故当時三二才の健康体の男子で、枚方寝屋川消防組合に消防司令補として勤務していたが、本件事故がなければ昭和四五年三月一日から同四六年六月末日までの間において、給与(給料、扶養手当、調整手当および管理者手当を合計したものをいう、以下同じ)として一、四七一、七六〇円(一か月分の給与九一、九八五円に一六か月を乗じて得た数額)の外に、期末手当および勤勉手当として、同四五年三月と六月に合計一五六、一五六円、同年一二月に二〇万円、同四六年三月と六月に合計一六万円を得られるはずであつたところ生活費は収入の三分の一と考えられるから、同期間中における同人の死亡により逸失利益は、一、三二五、二七六円となる。

(二) 昭和四六年七月一日から同六七年三月末日までの間の逸失利益

亡弘は、本件事故がなければ、昭和四六年七月一日から同人が五五才に達し停年退職すると推定される同六七年六月末日までの間、同組合に勤務し、その間順次昇給昇格して給与ならびに期末手当および勤勉手当を得るはずであつたところ死亡によりこれを失つた。そしてその昇給昇格の態様、各年度毎の給与額、期末手当および勤勉手当および勤勉手当の額、生活費およびその差額の純利益は、いずれも別表(一)記載のとおりであり、ホフマン式計算により、この純利益から年五分の中間利息を控除して、その現価を求めると同表記載のとおり一七、九一四、八三九円となる。

(三) 退職一時金に関する逸失利益

亡弘が昭和六七年三月に五五才で同組合を停年退職した場合には七、一〇六、七六九円の退職一時金を得るものと推定されるところ、右金額からホフマン式計算により年五分の中間利息を控除すると三四六〇九九六円となるが、同人は本件事故死により退職一時金として一、九四八、四三八円を受けたので結局その差額である一、五一二、五五八円の得べかりし退職一時金を失つた。

3  相続

原告西田玲子(以下原告子玲という)は亡弘の妻、原告西田勝彦(以下原告勝彦という)、原告西田和憲(以下原告和憲という)は、いずれも亡弘の子であるところ、同人の死亡により同人の右債権を法定相続分に従い相続した。

4  慰藉料

原告玲子分三、〇〇〇、〇〇〇円

原告勝彦、原告和憲分各一、〇〇〇、〇〇〇円

四、損害の填補

原告らは自賠責保険から五、〇〇〇、〇〇〇円の支払を受け、これを原告玲子の損害に三、〇〇〇、〇〇〇円、原告勝彦、原告和憲の損害に各一、〇〇〇、〇〇〇円宛充当した。

五、本訴請求

以上のとおりであるから、原告玲子の損害残金は六、九一七、五五七円、同勝彦、同和憲の損害残金はそれぞれ六、九一七、五五八円となるところ、本訴においては原告ら各自につきうち金五、〇〇〇、〇〇〇円宛を請求する。

よつて、請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は民法所定の年五分の割合による)を求める。

第三  請求原因に対する被告らの答弁

一、被告会社

一の1ないし4は認めるが5は不知。

二は争う。

三は争う。

四は認める。

二、被告今西

一は認める。

二の3は認める。

三の1は認めるが、その余は争う。

四は認める。

第四  被告らの主張

一、被告会社の主張

被告会社は被告今西に対し、何等使用者と被用人の関係またはこれと同視しうる関係にあつたものではなく、まして本件事故車の運行につき支配ないし利益を有していたものでもない。すなわち、

1  被告今西は金森建材なる会社の専属的下請として運搬業務に従事していた者であつて、被告会社から独立した営業主体であり、同人に対し被告会社はなんらこれを指揮監督する関係にはなかつたのである。

2  被告会社は、事故当時建材の販売運搬を業としていたが、その運搬作業は、原則としてすべて被告会社従業員及び被告会社保有の車両によつて行つており、まれに運搬量の多い場合にのみ、その都度、不特定の運搬業者にトラック一、二台程度の臨時運搬作業を依頼していたにすぎない。

3  被告会社は事故前日の夕方、たまたま被告今西に大阪方面への一回限りの右臨時運搬作業を依頼したのであるが、本件事故は、その翌朝、被告今西が右運搬作業を完了した後、自己の他の仕事に赴く途上生じたものであつて、被告会社の事業の執行中に生じたものではない。

二、被告今西の主張(過失相殺)

亡弘は、被害車を運転し、制限速度(時速五〇キロメートル)をはるかに超える毎時八〇キロメートルの速度で、しかも対進中の加害車の動静に対する注視を怠つたままで進行したため、本件事故に至つたものである。したがつて本件事故の発生については、亡弘にも過失があるから、損害賠償額の算定にあたり過失相殺されるべきである。

第五  被告らの主張に対する原告らの答弁

争う。

理由

第一事故の発生

請求原因一(事故の発生)1ないし4の事実は当事者間に争いがなく、同5の事実は後記第四で認定するとおりである(但し、同5の事実は原告らと被告今西との間では争いがない)。

第二責任原因

一運行供用者責任および使用者責任

<証拠>によれば、次の事実が認められる。

1  被告会社は、本件事故当時、日本技術建設株式会社の下請として土木建築資材の販売業を営んでいたところ、二トン積トラック二台、八トン積トラック六台位を所有して資材運搬に使用していたほか、多い時で三〇名程度の車持込みの下請人に資材運送の下請をさせていたこと。

2  被告今西は、昭和四四年一一月ころ、加害車を購入し、同車を使用して被告会社、金森鉱津運輸、田辺重機工業および三友工業などから依頼を受けて物品運送の下請負仕事をしていたこと。

3  同被告に対するもつとも大口の注文主は被告会社であつて、同会社の仕事が被告今西の全体の仕事量の約七割を占めていたが、右下請契約の方法は、被告今西が早朝被告会社の事務所に加害車を持ち込んで出頭し、当日被告会社から物品の運送の依頼があれば、被告今西において運送の目的地、運送物品の重量等の請負条件を考慮したうえ、右依頼を引受けるか否かを決していたが、同会社から仕事の依頼がなかつたり、請負条件が合わないため同会社の仕事を引受けなかつたりした際には、適宜被告会社の同業者である前記金森鉱津運輸の下請運送や前記田辺重機工業の住友金属工業における構内作業等の下請をしていたこと。

4  被告今西が被告会社の運送の下請を行なう場合には被告会社から積荷の種類、数量および配達場所を指示されるだけで、右以外の点については格別の指示はなく、運転上の注意も与えられていなかつたこと。

5  加害車のガソリン代、自賠責保険の保険料等加害車の維持費はすべて被告今西が自ら負担しており、また同被告は、被告会社から、健康保険の加入等従業員類似の身分上の地位は一切与えられていなかつたこと。

6  本件事故当時、加害車の車体のドアの部分には、加害車のさきの所有者で且つ被告会社と同業者である金森鉱滓運輸の名称が記載されたままの状態になつていたこと。

7  本件事故は被告今西が被告会社から請負つた土砂の運搬に従事中に発生したものであること。

以上の事実が認められ、右認定に反する甲第四二号証の記載の一部は、前掲証拠に照して措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、被告会社と被告今西との関係は、通常の運送依頼者(注文主)と運送請負人との関係以上に出るものではないと認められ、右両者間に専属的ないし従属的請負関係があつたこと、または被告会社が加害車の運行に関し具体的に指揮監督していたことは証拠上到底認められないから、本件事故は被告今西が被告会社から請負つた土砂の運搬作業に従事中発生したものであるという事実を考慮にいれてもなお、被告会社が本件加害車の運行を支配する地位にあつたものとは、いまだ認めるに足りないものというべきである。よつて、原告らの被告会社に対する自賠法三条に基づく請求は失当である。

また、右に説示したとおり、被告会社と被告今西との関係は通常の運送依頼者と運送請負人との関係に過ぎないものであつて、雇用関係ないしこれと同視しうるような専属的、従属的下請関係、指揮監督関係は認められないから、原告らの被告会社に対する民法七一五条に基づく請求も失当である。

二一般不法行為責任

請求原因二3(一般不法行為責任)の事実は当事者間に争いがない。よつて、被告今西は民法七〇九条に基づき本件事故によつて生じた原告らの損害を賠償する責任がある。

第三損害

一亡弘が、本件事故によつて死亡した事実は当事者間に争いがない。

二死亡による逸失利益

二一、六五四、三二一円

<証拠>によれば、亡弘は、昭和三〇年四月以降枚方寝屋川消防組合に消防士等としてまじめに勤務し、昭和四〇年には将来の幹部職員候補として、消防大学本科に派遣されたこともあつて将来を期待されていたこと、本件事故当時は三二才で消防司令補の職にあつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。そして同人は、本件事故によつて死亡したことにより、次のとおり得べかりし利益を喪失したことが認められる。

1  昭和四五年三月一日から同四六年六月末日までの間の逸失利益

一、四〇七、六八六円

<証拠>によれば、亡弘は、同組合消防職員給与条例により、本俸として、昭和四五年三月一日から同年六月末日までの四か月間は、月七八、〇七八円宛、同年七月一日から昭和四六年六月末日までの一か年間は、月八万円宛の支給を受け、扶養手当、調整手当および管理職手当(以下諸手当という)として、昭和四五年三月一日から昭和四六年六月末日までの間に月一三、九〇七円宛の支給を受け、期末手当および勤勉手当として、昭和四五年三月および同年六月に合計一五六、一五六円、同年一二月に二〇万円、昭和四六年三月および同年六月に合計一六万円の各支給を受け得ていたであろうことが認められ、右認定に反する証拠はない。そして同人の生活費は収入の三〇%と考えられるから昭和四五年三月一日から昭和四六年六月末日までの間における同人の逸失利益は一、四〇七、六八六円となる。

算式

(イ) 昭和四五年三月から同年六月まで

(七八、〇七八+一三、九〇七)×四+一五六、一五六=五二四、〇九六

(ロ) 昭和四五年七月から昭和四六年六月まで

(八〇、〇〇〇+一三、九〇七)×一二+三六〇、〇〇〇=一、四八六、八八四円

(ハ) (524,096+1,486,884)×0.7=1,407,686

2  昭和四六年七月一日から昭和六七年二月末日までの間の逸失利益

一八、七三四、〇七九円

<証拠>によると、亡弘は、少なくとも右期間中前記組合に勤務し、その間同組合消防職員給与条例により順次昇給昇格して本俸、諸手当、期末手当および勤勉手当を得るはずであつたところ、その昇給昇格の態様、各年度毎の本俸および諸手当、期末手当および勤勉手当の額等は、いずれも別表(二)記載のとおりであり、ホフマン式計算により年五分の割合による中間利息を控除してその現価を求めると同表記載のとおり二六、七六二、九七一円となることが認められ、右認定に反する証拠はない。そして同人の生活費は収入の三〇%と考えられるから、同人の同期間中における逸失利益は一八、七三四、〇七九円となる。

算式 26,762,971×0.7=18,734,079

3  退職一時金に関する逸失利益

一、五一二、五五八円

<証拠>によれば、請求原因三の2の(三)の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。よつて亡弘の死亡による逸失利益は、二一、六五四、三二三円となる。

算式 一、四〇七、六八六+一八、七三四、〇七九+一、五一二、五五八=二一、六五四、三二三円

三相続

<証拠>によれば請求原因三3(相続)の事実が認められる。よつて、原告らは各自前記亡弘の損害賠償請求権を七、二一八、一〇七円宛相続した。

四慰藉料

本件事故の態様、亡弘の年令、家族関係その他諸般の事情を考えあわせると、原告らの慰藉料額は各二、〇〇〇、〇〇〇円宛とするのが相当であると認められる。

第四過失相殺

<証拠>を総合すれば、

1  本件事故現場は南北に通ずる、歩車道の区別がなく、かつ両側にガードレールが設置されている幅員13.6メートルのアスフアルト舗装の直線道路(国道一七〇号線、以下本件道路という)上であつて、本件道路は中央線により南行、北行の各車線に区分され、さらに各車線はそれぞれガードレール寄りの幅員3.5メートルの通行帯(以下第一通行帯という)と中央線寄りの幅員3.3メートルの通行帯(以下第二通行帯という)とに区分され、制限速度は時速五〇キロメートルと指定されていること

2  本件事故現場の18.4メートル北側に、東西に通じる幅員5.4メートルの歩車道の区別のない道路と、本件道路とが交わる交差点があり、右交差点の北側の本件道路上には幅員四メートルの東西の横断歩道が設置されていること、

3  本件道路は右交差点を頂上として右交差点の南北各一〇〇メートルの地点から右交差点にかけてそれぞれ一〇〇分の三の上り勾配となつているため、南北いずれの方向からも右交差点の反対側の見通しが悪いこと、

4  被告今西は、加害車を運転して本件道路南行車線の第二通行帯の中央を北から南に向つて時速七五ないし八〇キロメートルの速度で進行し、前記横断歩道の約89.8メートル手前にさしかかつた際、約31.2メートル前方の同通行帯上を、時速約六〇キロメートルの速度で先行中の貨物自動車(バン)が方向指示器により左折の合図をしたので、同車を右から追い越そうと考え、同車が左に進路変更するのをまたずに右に進路を変更して中央線を約1.8ないし1.9メートル右に越えて反対車線(北行車線)の第二通行帯に進入して進行し、前記横断歩道附近から同車と併進状態となつたが、前記横断歩道の手前の地点で約69.4メートル右前方の北行車線の第一通行帯と第二通行帯の中間を対向して進行して来るマイクロバスを認めたのでハンドルをやや左に切つたうえ、前記先行の貨物自動車が左に進路を変更して加害車に進路を譲るよう警笛を三、四回吹鳴したが同車が進路を譲らないので、前記のような併進状態のまま北行車線の第二通行帯を進行したが、同車の動静に気を奪われて進路前方に対する注視がおろそかになつた状態のまま進行を続け、前記交差点を通過して前記マイクロバスと離合した直後に北行車線第二通行帯を対向して進行してきた被害車を約10.2メートルの前方に接近してはじめて発見し、直ちに急制動の措置をとつたが及ばず、中央線を右に約二メートル越えた状態で加害車の右前部を被害車の右前部に衝突させて被害車を斜め後方(南西の方向)に跳ね飛ばし、ハンドル操作の自由を失つた被害車をさらに北行車線第一通行帯を北進していた立花初美運転の普通乗用自動車の右前部およびその後方を追随していた阪田信彦運転の普通貨物自動車右側部に次々と衝突させて亡弘を道路上に転落させ、さらに加害車の車体後部を左に転回させながら南西方向に疾走させ、加害車を北進中の土田義資運転の軽四輪乗用自動車ほか一台の自動車に衝突させたこと、

5  亡弘は被害車を運転して本件道路北行車線の第一通行帯を南から北に向い、同方向に時速約四〇キロメートルで進行していた前記立花運転の普通乗用車の後方をこれに追随して進行し、本件事故現場の約七〇メートル手前で、同車を追い抜くため進路を第二通行帯に変更して同車を追い抜き、そのまま第二通行帯のやや中央線寄りを先行の前記マイクロバスに追随して進行中、前記のとおりの地点で加害車と衝突したこと、

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、被告今西は、本件道路の本件事故現場附近を通過するにあたり、制限速度を遵守し、前方左右を注視して進路の安全を確認しつつ進行すべきはもちろん、被告今西が南行第二通行帯を進行していた先行の前記貨物自動車の追い越しを開始した地点は、上り坂の頂上附近であつて前記交差点を頂上とする坂の南側の見通しが妨げられていたのであるから追い越しをしてはならず(道路交通法三〇条参照)、また、万一追い越しをする場合でも本件道路は左側部分(南行車線)の幅員が六メートル以上の道路であるから道路の右側部分を通行してはならない(同法一七条三、四項参照)注意義務があるのにこれを怠り、制限速度を超過する時速七五ないし八〇ロメートルの高速度で進行し、前記地点で漫然前記先行車の追い越しを開始して反対車線に進入したうえ、前記先行車の動静に気をとられて進路前方に対する注視を怠つたまま進行した重大な過失により本件事故を発生させたものと認められる。

ところで、被告今西が亡弘にも高速且つ前方不注視の過失があると主張するが、被害車の速度が制限速度を超過していたことを認めるに足りる証拠はなく、また本件の具体的状況において被害車が格別制限速度以下に減速しなければならない注意義務が存するものとは認められないから被害車の速度の点について亡弘に過失があつたものということはできない。次に、前認定の加害車、被害車および関係各車両の速度、位置関係等によれば、亡弘も本件事故の直前に多少進路前方の注視を怠つていたのではないかと推認されないでもないけれども、前認定のとおり亡弘は自己の走行車線である北行第二通行帯を進行していたものであつて、本件事故は加害車が中央線を超えて被害車の進路上に進入したことが原因となつて発生したものであること、被害車の進行方向からも前記交差点の反対側の見通しは不良であつたのであるから、仮に亡弘に多少の前方不注視があつたとしても、加害車が中央線を超えて進行して来ることが亡弘に発見可能な状態となつてから本件事故発生に至るまでの前方不注視の継続時間は、極めてわずかであるに過ぎないものと考えられるから、仮に亡弘に前記のような多少の落ち度があるとしても、前認定の被告今西の自動車運転者として当然に遵守すべき最も基本的な交通法規に違反した重大な過失と対比すると、亡弘にはいまだ過失相殺の対象としなければならない程の過失があるものとはいうことができない。

よつて、被告今西の過失相殺の主張は失当である。

第五損害の填補

請求原因四(損害の填補)の事実は当事者間に争いがない。

第六原告らの損害残額

よつて、原告らの損害残額は原告玲子につき六、二一八、一〇七円、原告勝彦、原告和憲につき各八、二一八、一〇七円となる。

第七結論

よつて被告今西は原告ら各自に対し、それぞれ前記損害残額のうち金五、〇〇〇、〇〇〇円宛およびこれに対する本件不法行為の日の後であり本件訴状送達の日の翌日であることの記録上明らかな昭和四六年一一月二一日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告らの被告今西に対する本訴請求は正当であるからこれを認容し、原告らの被告会社に対する請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(奥村正策 二井矢敏朗 柳田幸三)

別表(一)、(二)<省略>

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